Sunday, July 3, 2011

入寮

寄宿舎の寮棟は煉瓦造りの四楼、屋根は積雪の落下する所にて険巌のごとく切立てり、九月初旬の風光暖緩、晴天は錦瑟を響かせるが如く明朗たり、しかれども其の深碧の間に傷心ヲ潜む、昔日の夕陽、渓水の淡影、薫風に扉を立てゝ耳を澄ませば万斛の思ひ胸に在り

混沌とした心中を行燈にて照らす、之を思想と謂ふなり、なぜかしらん、心は淀みて〳〵、混濁すること已まず、古池の泥水が如し、しかしそれを行燈で照らせど藻、よどみは抜けきらず、但だよどみが淀みとして現前す、豈に是れ又思想の髄ならざらんや

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