Thursday, June 30, 2011

華琶夜のなみだ

淡く凍て付きたる雪原有り、夜も更けて月朦朧と暗香を放つ、孤狐も帰途の路を馳せて涙ぐみたる、扉を幾張開けども永久(とこしへ)に夜、言の無き華火は雪ノ一粒一粒より出で来る

此のやうな孤独を味わつたことがあつたであらうか。北辰も見えず四海蒙昧として、チラチラとした炎のやうなものだけが瞼ノ裏側で瞬きては、地中深き時間の陰に身を倚せてじッと動かずに居。窗外に降り積もる雪の重なり合ふ聲を聴。

Thursday, June 23, 2011

自序

何を思い立つたか、新畔沙のX舎について書いてみんとす、つれ〳〵゙なるまゝに書かんとすは、はや十年斗前のはなし、現代の日本語に大なる限界を見、世に君臨す英語にさへ小なる限界を見る、この節度毫末も無く誤謬満満とし分かりにくき闇闇たる言をゆるされたじ、たゞ今の文に甚だ不満を抱きたり、筆を擲ちて只管字盤にすがりつきたるは如何、近世朧月夜の暗雲にのみ墨汁の飛沫を見たり、そもまた夢か幻想か

日の出づる国とは何ぞや、其れ日ならぬ卑か屁か、吾れ屁の出づる国を離れし、時に十有五歳、あどけなき顔尻頭を米の国に移せり、これ何ぞや、彼方には新畔沙のX舎たるもの有り、此の如きものは亦た螽斯の国、酔睡の国にも有り、曾て屁の国にも有りしが今は鮮なし、新畔沙のX舎はこれ寄宿小学を謂ふ、米邦の寄宿小学は特に議論と作文を重視せり、記問の学に尽きることなし、専ら自問自答の術を磨くに当たり、隣の学者を師と仰ぎ、師を朋友と為して、相ひ学び相ひ導く、亦た説ばしからずや

方今余年を重ね筆力日びに衰退す、蓋し余の筆力は十有六歳にして頂点に達するも、後年は落日の暝没するが如し、尚ほ微力の存セル内に書き上げんと字盤にすがりて間を偸む、寄宿小学の妙意は知らぬがその思ひ出、海人手の指二三本ほどは有り、これを記するニ脳を使いしが、如今メモリイが若干足らぬ、ほかに記すべきこと覚ふるべきこと雲より多し、そこで本俗談を以てトロンク・ロムと為し、旧時のがらくた義理人情を之に預け託して、ここに序を為すと云