Thursday, July 7, 2011

月出る霧閠

それでも琴瑟を掻き鳴らし、謡は尚ほ欠聲にして咽頭にて止む、星期六夜も更け玄雪も降積り、ザヾリと言ふ音もする儘に、舟哥は無舟にて進み之く、夜は窗に黒く張り付きて離れず

琴瑟、楽房は大なる窗を設くる所なり、内戸は無く、幕も亦た無し、外に漫遊する五人組有り、寒の極み、凍た笑ひが聞こへる、琴瑟が愧ぢて莟と為り介る、嗟呼、煩き慢人や、倉卒として五人揃つて濁烏越し一斉に、尻を見せたる、是れぞ月之出と謂うヤツぢや、と酸を甞

これ如何、これ如何、と息を呑、蒼白い五穴の方形なるを忘ること能はず、暫く心が自ら方を相ひ画き続け、愚は戦慄せらる、無力の儘に琴瑟を掻き鳴らし、夜更けて時来りて獨り帰宿す

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